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吃音者のブログ

吃音者が、ブログを書いていきます。

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8

早い時間に目が覚めてしまった。ゆっくり体を起こす。昨日、頭がさえてよく眠れなかったわりには、頭がすっきりしていた。
ソファから降り、体を伸ばす。横に2つに並べられたベッドには、アイカと昨日再開した妹が眠っていた。
昨日の感情は、今でもはっきりと思い出せる。ずっと死んでいたと思っていた妹に再会した喜び。それより少し大きかった、妹への怒り。妹が悪いのではないと分かっていた。でも、両親が死んだ理由は、妹を誘拐し、殺した犯人を見つけるための調査をし、証拠を見つけたからだ。生きていたならもっと早く、知らせてほしかった。もし、妹が生きていると両親が知ったら、調査を止めていたかもしれない。両親が死んだ後でも、俺の苦しみを和らげる存在になったかもしれない。
そんな思いが、妹への怒りに変わってしまったのだ。だが今は、妹に怒鳴ってしまったことを後悔している。
俺の怒りを向けるべきは、妹ではなく、この世界に俺達を閉じ込めた犯人なのだ。妹が起きたら、謝ろうと決意し、俺は3人分の朝食を取りに下へ向かった。


目玉焼きののったトースト3枚とコーヒー3杯を持って2階へ上がる。
足でドアを開けテーブルの上に朝食をならべる。
アイカの寝ているベッドの近くへ行き、少し大きな声で言う。
「起きろ。ご飯の用意できてるぞ。」
始めに目を開けたのは、アイカで次に幸恵が目を覚ました。
「おはよう。朝ご飯用意してくれたの?」
アイカは、そういうと背伸びをし、テーブルの横においてあるイスに座った。
「あれ?ここは・・・・・あ、おはようお兄ちゃん。」
昨日あったことを思い出していった幸恵は、挨拶をするとふらついた足取りでテーブルに近づき椅子に座った。
お兄ちゃんといわれるのは、嬉しいがくすぐったい。
「さぁ、召し上がれ。ま、俺が作ったわけじゃないんだけどね。」
テーブルを囲って三人で座った所で、俺は言った。
「「いただきます。」」
アイカは口だけで、幸恵は手をあわせて言った。
幸恵は教育がしっかり出来ている。でも、教育した奴は大嫌い。
「な、なぁ、幸恵。昨日は怒鳴ってゴメンな。俺、どうかしてた。」
「だ、大丈夫だよ。あんまり気にしてないから。」
「そっか。」
俺は、あんまり幸恵が、喋らないので怒っているのかと思っていた。
幸恵は、深呼吸すると話し始めた。
「私ね、育て親にここの世界に連れてこられたんだけど、何か意図があるんじゃないかって思うの。このゲームを作った人なら、誰がオープンβに参加するか分かるはずだし、もしお兄ちゃんの名前があったら私をこのゲームに連れてこないはずでしょ?」
そうか。確かに何かあるのかもしれない。
犯人は、俺と幸恵を再会させたくなかったはずだ。幸恵が、現実世界でこのことを言えば、育て親はつかまることになる。でも、いまはこの世界から出られ・・・な・・・・・・・い・・・
俺達をこの世界で殺そう、ということなのかもしれない。だが、幸恵をこれまで育ててきた意味はなんだったんだ?全然分からない。
「だめだ。全然分からない。アイカは何か分かったか?」
アイカは、頭を振った。
「全然分からないわ。」
答えがわからないまま、俺達は朝食を食べ終えた。
まだ心にもやもやが残っていたが、このままずっとこの部屋で考えてるわけにもいかない。
「よし、じゃあさっそくレベルを上げに行こうか?」
今までの暗い雰囲気をけすため、わざと大きな、明るい声で、言う。
朝食の後片付けをし、戦闘準備―――心の準備だが―――をして、1階に降りていった。
「お兄ちゃん。私ね、昨日ギルドに誘ってくれて嬉しかった。」
「なんでだ?」
「私、この世界に閉じ込められた時、怖くて部屋の中に閉じこもっちゃったの。2日して、やっと外に出れたと思ったら、職業を<盗賊>に、しちゃっていたし、まだ子どもだからどこのギルドにも入れてもらえなかった。1人で狩をしに行くのは怖いから毎日、あの店に通ってたんだ。そこではじめて声をかけてくれたのが、お兄ちゃんだったから。」
幸恵は、はにかんでうつむきながら言った。
「お兄ちゃん。ありがとう。そして、ただいま。」
「あぁ、お帰り幸恵。」
へへっと言うと、幸恵は、俺の右腕に抱きついてきた。
「おわっ。何するんだ。」
「これまでお兄ちゃんにあまえられなかったぶん、いまあまえるの!」
まぁ、しょうがないか。何しろ、これまであまえる人がいなかったのだから、これぐらいは許してあげよう。
それに、小さながら弾力のある幸恵の胸が腕に押し付けられているのだから。
「じゃ、私も」
アイカは、そう言うと同時に俺の左腕に抱きついた。
「な、なんだよ。アイカまで・・・・・」
「あ、アイカさんは、お兄ちゃんにくっついたらダメです。」
「幸恵ちゃんだってくっついてるじゃない。」
「私は、お兄ちゃんの妹だから良いんです。」
「おいおい。お前ら喧嘩するなって。子どもみたいだぞ。」
そういった俺も、嬉しくないわけではない。だが、両腕に当たる胸の大きさが、ほぼ同じなのが残念だ。
年上のアイカの方が、胸が大きくてもいいのに・・・・・


《始まりの草原》に着いた俺達は、幸恵の武器をNPCからもらった。
やはり、『君がほしいのは武器かね?それとも武器かね?』と聞いていたが、アイかに挑みかかっては来なかった。負けを認めたのだろう
「アイカ、『北の玄武』に導くっていう刀を出して。」
うん、とうなずくと、持ち物メニューから<白虎の形見刀>を取り出した。
ついでに、俺の刀も出し、腰に差しておく。
「うわぁ。かっこいいですぅ。」
幸恵が感嘆の声をもらす。
アイカが刀を抜く。刀身が土の色――茶色――で出来ている。俺の時と同じように青白い光が現れるかと思ったが、何も起こらなかった。
「何で、何も起こらないんだ?」
「う~ん。この刀は、土に触れると刃こぼれも直すか・・・・土に刺せばいいのかも。」
アイカは、そう言うと土に刀を刺した。
シャラン――という音と共に、土の上を一本の青白い光の道が出来る。
「なぁ、これってもしかしてずっと刺したまま行かなきゃならないのか?」
もし、そうだったら大変だろう。土に刀を刺したまま歩くのはきつい。
「う~ん?そんなこと無いと思うけど・・・・」
アイカは、地面から刀を抜いた。光の道は、刀を抜いても消えなかった。
じゃ、行きましょうか、と言うと、アイカは光の道の上を歩き始めた。
「な、なんかアイカがかっこよく見えるのは気のせいか?」
光の上を歩くアイカは、光に照らされかっこよく見える。
「わ、私は、この世界でのアイカさんしか知りませんが、かっこよくなったと思います。」
幸恵もかっこよく見えるそうだ。アイカの後についていこうとした時、後ろから声がした。
「へぇ。君達が5神の居場所を見つけたってギルドかな?」
後ろを振り返ると、3人の男プレイヤーが立っていた。
アイカもこちらに気づき戻ってくる。
「たぶんそうですが、何で知っているのですか?」
5神の居場所を知ってるとは言いたくなかったが、向こうから5神のことを知ってるかと、聞かれたのだからしかたないだろう。
「いやぁ、たまたま耳にしただけだよ。ところで、その刀は5神の居場所に導いてくれるという物なのか?」
アイカの背中に差してある、刀を差しながら一番前にいた男が言った。そのことを知っていると言うことは、さっきからずっと俺たちの会話を聞いていたのだろう。
「そうで・・・・・」
俺の言葉が止まったのは、アイカに遮られたからだ。
「何でそんなことを聞くんですか?」
アイカが、俺の前に出て男達をにらみつけた。
「べつに。その刀だな。5神の居場所に導くという物は。」
男は、仲間に言い聞かせるように言った。
「よし、それでは、その刀を渡してもらおうか。」
男はニヤニヤしながら、手を前に突き出した。
「「「なっ」」」
俺達の驚きの声が重なった。
「<忍者>に<盗賊>、<超能力者>。ましに戦闘できるのは<忍者>ぐらいだろう。<超能力者>の低レベルプレイヤーは、スキルがないただのザコだからな。抵抗しないで刀を渡した方がいいぞ。」
男達は、脅すようにそれぞれの武器を、右のプレイヤーは弓を、左のプレイヤーは槍を、前のプレイヤーは刀を構えた。
戦闘態勢に入った事から、相手の名前、HPバーが表示される。俺達より、2、3レベル上だ。
「おい。低レベルだからって。スキルが無いとは限らないんだぜっ。」
俺はそう啖呵を切ると、《白虎》を倒した時に発現したスキル、<アースキネシスLv1>を発動する。
土が盛り上がり、男達の足を拘束する。
「な、なんだ。動けねぞ。」
「野郎、何でこんなスキル持ってやがんだ。」
うまくいったと、安堵する。失敗する可能性もあったから意外と緊張していたのだ。
男達は、自分の武器で足元の土を破壊する。
一番前にいた男が、刀を構え襲い掛かってくる。
俺は、自分の刀の柄に手をかけ、刀を勢いよく抜く。炎をまとった刀身を見て、一瞬襲い掛かってくる男が躊躇したが、そのまま襲い掛かってくる。
真下に振り下ろす、力まかせの一撃を、横から刀を振り、軌道を変える。
男は、刀を構えなおしたが、自分の武器を見て驚愕する。
俺も、驚いた。
男の刀の刃が、溶けていたのだ。安物の刀だからと、ここがゲームの世界だということが原因だろうが、この刀にはすごい炎をまとっているらしい。
残りの男達は、俺の相手をしないと決めたらしく、アイカと幸恵のほうに向かって駆けていった。
いい判断だろう。勝てないと分かると、目的のものだけ手に入れればそれでいいのだから、アイカを襲えばそれですむ。
だが、俺が黙ってみているわけが無かった。
刀の先で炎の玉を作り、アイカに向かってかけていく中で一番前にいた男に、投げつける。
見事命中し、男のHPが急激に減り、ゼロになる。
男の体が、ポリゴンの欠片となって消える。
目の前で消えた仲間の後ろを走っていた男は、恐怖で足がもつれたのか、無様に頭から転ぶ。
「て、てめぇ。」
俺に刀を溶かされた男は、俺に向かって叫ぶ。
起き上がった男が、顔から土を払いながら、やべぇって、逃げようぜと、男に耳打ちする。
「く、くそ。覚えてろ!」
男達は、漫画の悪者みたいに捨て台詞を吐き、逃げていった。
今起こったことがよく理解できていない幸恵は、分からないという顔で突っ立ていた。
アイカは、にやりと笑って。
「いやぁ。強いねぇ、カズキ君は。」と言った。
「そ、そうかな?あいつらが弱かっただけだって。」
実際には、俺より強いプレイヤーは何人でもいるだろう。でも、ほめられるのは嬉しかった。
「おにぃちゃん。かっこいいですぅ。」
気の抜けたような声で幸恵が俺に言ってくる。
「まぁ、な。そんなことより、早く『北の玄武』倒しに行こうぜ。」
「はいっ。」
幸恵が元気に返事をした。いい子だ。
アイカは、にやりとして、光の道の上を歩いていった。
幸恵は、俺の腕に抱きつき、俺を引っ張るようにしながら、アイカの後ろを歩いていった。



「聞いてませんぜ。あんなに強いなんて。」
カズキ達にやられた男達は、襲うよう依頼したギルドに文句を言っていた。
ギルドのリーダーと思われる、ごつい顔をした男は、
「ふむ。誰もあいつらが弱いとは言っておらんぞ。まぁ、ご苦労だった。」
そう言うと、ギルド専用の建物の中に入っていった。
「どうでした?」
建物の中で待っていた、仲間はリーダーに聞いた。
「あぁ、あいつらは相当強いらしいな。あいつらが4神を全て倒したら、あいつらを襲うぞ。仲間を増やしとけ。男は、そう命令すると、奥の部屋に入っていった。

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