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吃音者のブログ

吃音者が、ブログを書いていきます。

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3


《始まりの草原》に入った俺たちは、NPCにもらった唯一の武器を片手に歩いていた。
「なぁ、モブとやらはどこにいるんだ?」
《始まりの草原》に入ってから、10分も歩いているのにモブどころか、虫1匹見つからない。
「変だね。本当だったら、もう1匹ぐらいはエンカウントしてもいい頃なのに・・・」
「そうなのか?これはバグってやっ―――」そこまで言った俺の視界がぶれた。文字通りにぶれたのだ。
下へ下へ落ちていく感覚がしてから、ドスッという音と共に、背中にすごい衝撃が襲った。ここが仮想世界じゃなかったら、骨の1本や2本折れていたかもしれない。
仮想世界のため痛くない背中を伸ばすように、俺は上半身を起こした。
あたりを見渡すと、俺のすぐ横に野口が倒れていた。俺と一緒に落ちたのだろう。
体を起こし、野口に近寄る。息をしていない。俺は、救急隊員のごとく胸に手をやり、心臓を押す。
ムニッ、ムニッ、ムニッ、あ、これやばい。メッチャ楽しい。よし、キs、いやいや人工呼吸をしよう。鼻をつまみ口を合わせyッ―――――。
いきなり、顔を殴られた。痛みは感じないが衝撃がすごい。俺は、2メートルほど後ろに吹っ飛んだ。
「な、何すんのよ―――――――!」野口は、赤面しながらこっちにらんでいる。ヤバイ。殺される。い、いや待て、ログアウトがある・・・・。ログアウトして逃げるのコマンドを選択しようとしたが、思い直し、説得をする。
「ちょっと待て・・・俺は、お前を救おうとしただけだぞ!!!」これは本当の事だ。人命救助で表彰されてもおかしくない。
「こ、ここは、仮想世界だからHPがなくなれば、始まりの草原の入り口に戻るだけじゃない。しかも、仮想世界では、心臓とか呼吸とか無関係なんだからっ。」
そこまで野口が言ったとき、奥の方で咆哮が上がった。
「な、なんだ?」
「たぶん、モブが私たちが落ちてきた衝撃で目を覚ましたのかもしれない。」
「なぁ、それってやばいのか?」
「ここは、初心者向けの狩場だから、余り強いモブいないはずだけど・・・」
奥から現れたのは、炎をまとった鳥だった。モブに目を合わせるとHPバーが表示される。
モブの名前は、《朱雀》となっていた。
「なぁ、こいつ強いのか?」
「今はまだ弱いよ」と謎めいた事を言って、野口は小型の剣を構えて、《朱雀》に向かってかけていった。
俺も、剣を取り出し《朱雀》に向かって走る。自分でも、恐怖心がないのが不思議である。ここが仮想世界だからと言うこともあるかもしれないが、何故か恐怖心はなく、逆に楽しく思えてきたくらいだ。
野口、いや、これからはアイカと呼ぶことにしよう。アイカはジャンプし剣を真下に振り下ろす。
ピギァ、と《朱雀》が泣きHPが少し減る。《朱雀》は炎をアイカに向けて口から吐いた。炎にぶつかる瞬間、アイカは横へ転がり、避ける。俺は、真正面に飛び込み《朱雀》の細い首を切り落とすつもりで横に剣を振る。
首を切断するまでにはいたらなかったが、人間でいうのどのあたりを切り裂いた。
炎と血が混ざって飛び散る。《朱雀》のHPが半分以下まで削られる。いったん、後ろに俺は下がり剣を構えなおす。《朱雀》は俺に向かって一直線に飛んできた。とっさに避けたが、羽の部分が俺の顔をかすりこげた匂いが充満する。俺のHPが少しばかり削れる。すぐに体制を立て直す。また、こっちに向かって一直線に飛んで所を横にステップで避け、剣を振り下ろす。クリティカル判定の音と共に、《朱雀》の断末魔が俺の耳に入ってくる。《朱雀》はポリゴンのかけらとなって空中に霧散した。
この世界で呼吸は別に必要ないのだが肩を上下させ、呼吸を整える。
「なぁ、アイカ。《朱雀》なんて立派な名前ついてる割には、すごく弱かったぞ。」
アイカは、転がって避ける時に腕をうったのか手を押さえていた。
「あれは、このマキシマムオンラインの中に一匹だけしか存在しない超がつくレアモブだよ。倒すごとに生き返るのだけど、生き返るごとに強くなっていくの。今のは、初期だったから弱かったのよ。」
ここまで一気に話すと、一呼吸入れてからまた話し出した。
「始まりの草原には『東の青竜』『南の朱雀』『西の白虎』『北の玄武』『中央の麒麟』がいるの。この五つのモブを倒したら、何かのイベントが発生することになっているのだけど、居場所が見つからなかったのよ。どこか一つの居場所を見つけたら、次のモブの居場所がわかる設定になってるし、一回見つかったら他のプレイヤーは発見できなくなるから、先に見つけようといろんなプレイヤーが探し回っているらしいよ。でも、私たちが見つけたから、もう他のプレイヤーは見つけられないわ。それより、早くこの穴から出た方がいいわ。次にあの《朱雀》が襲ってきたら、今は勝ち目はないわ。」
そう言って、アイカはメニューを呼び出し、フックがついた縄を取り出した。
「何だよそれ?」
何も、始まりの町で買わなかったはずである。
「これは、忍者の初期防具と一緒についてきたものだよ。後手裏剣も合った気がするなぁ。」
「そうなのか・・・ッ―――」
突然、俺の体が燃え出した。
慌ててHPバーを見るが、HPは、1ドットたりとも減ってない。
「な、何なんだこれ?」
「た、たぶんそれ、レアスキルの<パイロキネシス>よ。簡単に言うと発火能力。」
アイカは、信じられないという顔つきでこっちを見ていた。
「なぁ、これってもしかして、ずっと燃えっぱなしって事ないよな?」
「うん。制御できるはずだよ。」
俺は、制御仕様とした。『静まれ』『消えろ』と心の中で念じるが火は消えない。
ふと、両親が死んだ時の火事を思い出した。この能力があれば火事の火を楽に消せたかもしれない。そんな考えが頭をよぎった。火事を止めれたらよかった。俺がそう思うと、俺を包んでいた火は自然と霧散した。
少し恐怖を覚えたが、気持ちを落ち着けてメニューを呼び出す。
カズキ<超能力者Lv5>と表示されていた。今の戦いで、5もレベルが上がってしまった。さすが超のつくレアモブだ。獲得経験値が高い。次にスキルメニューをクリックすると、そこには<テレパシー>と<パイロキネシスLv1>が設定されていた。最後に、持ち物メニューを呼び出し、ドロップアイテムを確認する。<朱雀の形見刀>という剣が1個だけドロップされていた。クリックし、オブジェクト化すると、光と共に赤色に鞘に収められている刀が現れた。
柄を握ると何だかこれを何年も使っていたかのように、手にフィットした。刀を勢いよく抜く。ジャリィィィンと気持ちのいい音が、響き渡った。驚いたことに、抜いた刀は朱雀と同じ色の炎をまとっていた。刀を鞘に収めると、この武器の説明を読んだ。『この刀は、朱雀に気に入られたプレイヤーにだけドロップするアイテムです。なお、この刀は『西の白虎』の居場所に導きます。』
俺が《朱雀》に気に入られた?何が気に入られたのだろう?考えてみたけど分からなかった。
「なぁ、そういえばアイカには何がドロップしたんだ?」
アイカと俺は、PT扱いになっているはずである。アイカは、メニュー画面を呼び出すと持ち物を確認した。
「私には、ギル(この世界の通貨)だけしかドロップしてないわ。でもそのギルの量がすごく多いわ。まぁ、超レアモンスターだから、当たりまえなんだろうけど。さ、もう上に出ましょう。いつ《朱雀》が襲ってくるか分からないわ。」少し残念そうな顔をしたアイカはそう言って、持ち物からフックのついた縄を取り出し、落ちてきた穴の上に投げた。うまく引っかかったのを見てアイかは、上り始めた。
俺も上り終わるとアイカは、縄を回収しウィンドウを広げて、その中に縄をしまった。
「一回、始まりの町に帰ろうか。私なんか疲れちゃった。」
アイカは少し苦笑いしながら言った。
「あぁ、そうだな。あ、そうだ。この刀さ、『西の白虎』の所へ導いてくれるらしいよ。」
アイカは、嬉しそうに笑った。
「これで、明日どこ行くか決まったね。」
俺達は、ゆっくりと《始まりの街》を目指して歩き始めた。
途中で剣をもらったNPCと出会い、NPCがリベンジのチャンスとアイカを笑わせようと必死になったが、
NPCが拗ねるだけだった。少しぐらい笑ってあげてもいいのに・・・・
始まりの町に付いた俺達は、《朱雀》からドロップしたギルを少量使い、宿を借りた。
2人で、今日ドロップした刀をよく見ようと、刀をメニューから取り出した。
その時、隣の部屋から悲鳴が上がった。急いで隣の部屋の前に行き、ドアをノックする。
すごい勢いでドアが開いた。ドアを開けたのは、女プレイヤーで綺麗な顔立ちだが、顔が真っ青でせっかくの顔が台無しだった。
「どうかしましたか?」俺は、ゆっくり慎重にたずねる。
「ろ、ログアウトボタンが、ログアウトボタンがなくて、ログアウトできないの。」そのプレイヤーは、震える声で言った。いつのまにか、悲鳴を聞きつけたのか部屋の外に人だかりができていたが、そこからざわめきが起こった。一番前にいたプレイヤーが、メニューウィンドウを呼び出し、ログアウトボタンがあるかどうか確認したプレイヤーが床に座り込んだ。
この、ログアウト不能という事態はすぐにマキシマムオンラインのプレイヤー全ての人に伝わった。
泣き叫ぶものもいれば、これからどうするか、何が起こっているのかを考えるものもいた。
おもな内容はこうだ。
・これは、運営の不具合なのか、それとも小説や映画にあるような、ログアウト不能設定なのか。
・これは、デスゲームでこっちの世界で死んだら現実世界でも死ぬのか、あるいはデスゲームではなくただのログアウト不能なだけなのか。
・現実世界の体はどうなるのか?
この2番目の可能性は、ログアウト不能が分かってから2時間後に判明した。
始まりの草原にいたプレイヤーが、モブに殺されたが、《始まりの草原》と《始まりの町》の境目で、蘇生したのが判明し、デスゲームではないと分かった。
デスゲームではないという事実がわかった今、死を恐れることはないが、ログアウトできないのは事実である。
これから、どのような事になるかも分からないプレイヤー達は、レベルを早く上げようと《始まりの草原>へと発っていった。
俺達2人は今日は休み、明日からレベル上げをすることに決めた。<朱雀の形見刀>をウィンドウにしまうと、俺はベッドに横になった。となりのベッドで、アイカが眠っているというのに何故か、気にすることもなく眠りに落ちた。

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